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自分好みの音を目指して。蓮井幹生さん

Ken's Clinic連載第三回目は、写真家としてご活躍されている蓮井幹生さんの仕事場へ伺いました。広告やレコードジャケットなどのグラフィックデザイナーとして活躍していた蓮井さんは独学で写真を学びカメラマンに転向し、その後、コマーシャルフィルムの撮影、ディレクションなどで活躍しているオーディオ・マニアにしてアート・ペッパー・フリーク。
ぼくの装置はアンティックだから、現代風オーディオ・アクセサリーを使って効果があるのかな~と、若干及び腰でクリニックを受けて頂いた。

自分好みの音を目指して。蓮井幹生さん ジャズとの出会いはベニー・グッドマンから。
小学校3年の頃から母が趣味でやっていたマリンバをぼくもやらされていたので音楽は好きでした。でも、耳に入る音楽を何となく聞いていただけです。 小学校5年か6年の時に母が買ってくれたベニー・グッドマンのレコードを聞いてジャズにハマっちゃったんです。 「シング・シング・シング」とか「メモリーズ・オブ・ユー」のスイング感がカッコ良かったし、音色ですね。それからスイング・ジャズを聴き始めたんです。

クラリネットが好きだったので、中学に入ってブラスバンドでクラリネットを始めました。アーティ・ショーが凄い好きで、高校に入ってからはテナーを吹いていました。段々モダン・ジャズを聴くようになって、マイルス・デイビスとか、ソニー・ロリンズ、コルトレーンとか、誰もがひと通り聴くモダン・ジャズをびっちり聴いていました。学校を抜けて聞きに行ったジャズ喫茶は渋谷のジニアスとか音楽館、それからレコード・ジャケットが上の階に上がってくるデュエット。新宿ではディグ、大学に入ってからは代々木のモーグにもよく通いました。

自分はテナーサックスを吹いていたのに、アート・ペッパーばっかり聴いていました。ブラス・バンド部の部長になった時にクラブを解体してジャズ・バンドに変え、部員が少なかったので、ナイン・コンボぐらいの譜面を集めてきて、みんなにやらせてました。ぼくは高校一年の時から馬込に四畳半のアパートを借りて一人暮らし。昼間は明治学院高校に通い、夜は渋谷の西村フルーツパーラーと荏原にあった第一家庭電器でアルバイトをしていましたが、時々、錦糸町とか亀戸のキャバレーで吹かせてもらったんです。

Ken'sClinic蓮井幹生 オーディオ事始めは自作のスピーカーから。
アパートの部屋にオーディオが欲しくて、秋葉原でアルバイトしたお金をほとんど使ってJBLの20センチだったか25センチのフルレンジのスピーカーを買って、長岡鉄男のスピーカー自作の本を読みながら、ラワン材で箱を作り、緑色に塗りました。

アンプはラックスマンの真空管の組み立てキット、プレイヤーはCECの一番安いもので、カートリッジはシュアーのM44を使っていました。トイレ共同の長屋のようなアパートの三部屋並んだ真ん中がぼくの部屋で、扉にジャズ・ハウスって書いて貼りました。

隣に住んでいたゼロックスに務めていた森田さんという若い方と仲良くなったんですが、彼がぼくに刺激されて、JBLのランサー101とラックスのソリッド・ステートのアンプを買ったんです。それがものすごくいい音がしているんですよ。ベースのアタック音がぶっぶっぶっとはっきり聴こえることに感動しましたね~。

JBLはずっと使っていましたが、その後ハマったのがFOSTEXの10センチのフルレンジ。平面バッフルにしたり、バックロードホーンを作ったり、色んな箱に入れて聞きました。長岡さんが設計した20センチ用のバックロードホーンを10センチ用に1/2に縮尺して作りました。アンプはラックス・キットを手作りしただけでしたが、スピーカーが面白くて、色々凝ってたな~。

Ken'sClinic蓮井幹生 いつの時代の演奏でもアート・ペッパーは好きです。
21歳で結婚した頃はデザイナーをやっていて、お金も無くて生活も大変だったので音楽から離れて、オーディオも持っていませんでしたが、26歳の時に麻布十番に自分の事務所をつくったんです。

すごく広い事務所で大きなスピーカーも置けるので、テクニクスのモニター・スピーカーを買いました。30センチ・ウーファーのスリーウェイで中古でとても安かった。それを売って次に手に入れたのがダイヤトーンの角が丸くなった放送局でよく使っていたモニター・スピーカー。ジャズばっかり聴いていました。その頃、自宅にはオーディオは無かったです。

アート・ペッパーは、音にすべてが現れています。華々しい時には演奏も華やかで、麻薬でぼろぼろの時、病気から復帰した時は哀しく切ない音だし、その時々の人生がすべて音に現れているからどの時期の演奏も大好きです。チェト・ベイカーとかアート・ペッパーって、破滅型のジャズの魅力を持った最後のジャズ・メンじゃないかな。『ミーツ・ザ・リズム・セクション』とか『モダン・アート』が特に好きですね~。

その会社を辞めてデザイナーを廃業し、写真家の勉強を始めた時にオーディオを手放しました。1989年に写真家の事務所をつくった時に、小さなオーディオを入れましたが、何だったかは覚えていません。

CD JBL4345との出会い。
今から20年くらい前、40代始めにようやく写真家として仕事が出来るようになり、収入が一気に上がった時に、アルテックのModel19を買ったんですが、うまく鳴らせませんでした。

その頃から学芸大学にあるホーム商会という老舗のオーディオ屋さんの船橋さんと仲良くなって、彼に相談をしながら、システムをだんだん構築し始め、ぼくのオーディオ人生を変えたJBLの4345というスタジオ・モニター・スピーカーを買ったんです。

当時、深沢のマンションに250平米くらいの事務所があったんですが、そこのミーティング・ルームで鳴らしていました。アンプはマークレビンソン、プレイヤーはヤマハのGT2000で、カートリッジはスタントン。ガチっとしたJBLサウンドです。それが、一番最初にぼくが満足したオーディオでした。

友達と話をしている時に、スタントンでレコードを聴くんだったら管球アンプの方がいいということになって、ダイナミックオーディオでメイカーは忘れましたがEL34を使った大きな管球式のパワーアンプを格安で買ったんです。
ところが、マークレビンソンとはあまりにも音が違いすぎて、何だこれはとがっかりして一ヶ月くらいで売り払い、その当時はスピーカーにお金をかけてしまったので、アンプにまで手が回らなかったこともあり、日本のメーカーが中国で生産している管球アンプの専門メイカーで船橋さんからも推薦されていたオーディオスペースのアンプがダイナミックオーディオに安く出ていたので買いました。

このアンプがとてもいい音で、KT88という真空管を使っていたんです。それ以来、真空管でアンプを選ぶようになり、ほとんど全部ホーム商会で揃えるようになりました。その頃はオーディオに注ぎ込めるお金もあったし、一番オーディオに熱くなった時期で、車よりオーディオという感じでしたね。

CD 昔のジャズ喫茶の音を追い求めて。
今回、石黒さんのクリニックを受けてよく分かった事があります。よくよく考えてみるとぼくがオーディオに望んでいるのは、ジニアスとかデュエットとか吉祥寺のメグで若い頃に聴いた音が欲しいだけなんです。ジャズ喫茶の音はとても派手だったりして、決して自宅で聴くには相応しい音ではないと言う方もいますが、でも、その音をぼくは自宅でも出したいんです。

JBLの4345は今は茅野の自宅に置いてあり、いい音で鳴っていますけれど、ジャズ喫茶に通っている頃に欲しかったオリンパスは今でもいいと思うし、事務所に置いてあるD130が入っているJBLのバイカウントも凄く好きなんです。いわゆる洗練された音ではないですけど。

もちろん洗練された音も好きなので、この先、また僕の人生が盛り上がったら、洗練された現代風のオーディオ・システムも欲しいと思いますが、その時は小型システムですね。

CD 音の変化に驚きました。
4345などのスタジオ・モニター系はすでに持っているので、A5とかA7のようなアルテックの劇場用スピーカーを一度持ってみたかったのですが、たまたまホーム商会に入荷したので、手に入れたところです。

スピーカーが古いものばかりだからスピーカーコードも細いもので充分だし、電源ケーブルなんかも高くて手が届かないんです。友人たちに蓮井さんのシステムだったらあんまり高級なケーブルに替えても意味ないよと言われていたこともあり、オーディオ・アクセサリーというものを今まで使ったことはないし、興味もなかったんです。

今回、石黒さんに色々とやっていただいて、音がこんなに変わるということに正直言ってショックを受けました。特に電源ケーブルを変えた時の音の変化は衝撃的でしたね。だって、コンセントからアンプまでの部分を変えて、あんなに音が変化するというのは今でも信じられないですよ。時々今までのケーブルと取り替えて聴くんですけど、全然違いますね。でも、どっちがいいかというとそれはビミョーです。どっちもいいんです。石黒さんのケーブルが気に入らなかったら、外しますけど、そのまま聴いてますからね。

CD アルテックっぽい音って一体なんなんだろう。
ケーブルに限らずアコースティック・リバイブの製品を使うと音が締まります。ぼくの使っているものだと音がほわ~んとしているけれど、アコースティック・リバイブの製品は純度が高くて音の密度が上がると思います。装置の持っている潜在能力を引き出して、何の色付けもしない音を目指していると石黒さんは言われていますが、石黒さんの創った製品は石黒さんの音がしていると僕は思います。

例えば、古いケーブルに変えれば、アルテックっぽい音がするんです。でも、ぼくが思うアルテックっぽい音というのは、本来のアルテックの音ではないのかもしれない。薄暗いビルの地下にあるジャズ喫茶でアルテックのスピーカーから鳴っていた50年代、60年代のジャズの音が僕たちにとってのアルテック音なんです。つまり、石黒さんがおっしゃるような本来のアルテックの音を僕たちが知らなかったということだと思います。

40年以上前に四畳半でD130で音を出すためにこつこつやっていたことと今と何ら変わらない。40年前と今と、オーディオに求めている音が全く変わってないということに我ながら驚きます。今回は電源ケーブルやコンセントによる音の変化に一番衝撃を受けました、凄いです。その次がRCAケーブル。インシュレーターなんかは差が分からなかったので、僕はそんなに繊細にオーディオの音を聴いていないということが凄くよく分かリました。

やっぱりソースを聴いてるんです。ペッパーがどうメロディーを吹いたとかベースがどう絡んだとかを聴いているので、音質をあんまり気にしていなと思います。

CD いい音って何だろう。
この前、今はウクレレ奏者で大学時代を一緒に過ごした友人の海田君が何十年ぶりに連絡をくれて、昔ばなしに花を咲かせましたが、その時彼がこう言ったんです。「蓮井のとこに行くとさ~、すげえJBLのスピーカーとかあって音が凄かったけど、結局二人で一番喜んだのは、チューナーでエアチェックしたジャズを俺のラジ・カセで聴いた時だよね。ジャズってそういうもんだね~」と盛り上がったんです。

ぼくのオーディオは大体これでいいかなと思っています。石黒さんにクリニックしていただいた時は、プレイヤーはガラードだったんですけど、トーレンスに変えたらまた音が変わりました。後はいいCDプレイヤーが欲しいですね。CDをもっといい音で聴きたいんです。本当は昔のスチューダーとか欲しいですけど、高くて買えないな~。